駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
声を殺して泣く矢央の肩は上下に揺れていた。
永倉は雨の上がった空を見上げた。
通り雨の後の空とは、何故こんなにも澄んでいるのか。 星が美しすぎて目が当てられない。
こんな日こそ、土砂降りの雨が降ればいい。 そうすれば視界が悪く沖田ですら…なんて思って頭を振った。
「おらっ! いつまでもメソメソ泣くんじゃねぇぞ!」
「んぎゃッッ!?」
顔を手で覆い、膝の上に乗せている矢央の肩をガシッと掴み勢いよく起こす。
いきなりだったため驚きに揺れる赤い瞳。
「…うさぎみてぇな」
「ひっく…うっ…?」
「目が赤いっつーの」
ああ。 と、ゴシゴシと手の甲で目元を拭う矢央の手を掴んで止めさせると、永倉は矢央の後頭部に手を当て力任せに引き寄せた。
「!? ……ふンぐっ!」
「お前はやっぱり、まだまだガキだよ」
「?」
「泣くのを我慢して溜め込むな。 大人だってな―…泣きてぇ時は声出して泣くんだよ」
ただし男なら誰にもバレないようにな。 とは、言わなかった。
永倉の胸に顔を埋め、着物に皺がいくのを多少気にしながらもギュッと掴み、ぼろぼろと溢れる涙を今度は我慢などしない。
「――うあぁぁッッ…」
寺に響く泣き声を他に知られぬように、永倉は小さな身体を自身の身体に包み込んだ。
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