駆け抜けた少女ー二幕ー【完】

***

沖田は言い付け通り、山南を生きたまま屯所まで連れ帰った。

山南が戻って来たことを知った面々は、騒ぎにならないように時間を置いて前川邸の門を潜る。


藤堂は山南を見た途端、彼に抱きつき泣き崩れた。

何度も 「どうして」 と、嗚咽混じりに。


永倉や原田は涙こそ流しはしなかったが、山南を見る表情は悲しみに歪んでいた。


そして近藤は、山南に何故出て行ったのかを問いただすも、山南は断固として口を開くことはなかった。



「俺のせいか?」


土方の問いに、ようやく顔を上げる山南。


強張った表情に対し、山南は無表情で土方を見つめた。


もう一度、土方は同じ言葉を口にする。


「俺の…せ―」

「いいえ。君はいつだって正しいですよ」

「…ッッ!」



久しぶりに見た山南の微笑みは、今の土方にはかなり酷なものだった。

山南から剣を奪い、地位を奪い、居場所すら奪ったというのに。


「近藤さん、こうすることしか出来ない私を許して下さい」

「…山南(さんなん)」


近藤は瞼を閉じ、ただ悔しそうに唇を固く結んでいた。


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