駆け抜けた少女ー二幕ー【完】


一旦部屋へと帰された山南は、障子に写る小さな影に声をかけた。


「寒いでしょう。 中へどうぞ」

「……失礼します」


お盆に乗った湯飲みから湯気が立ち上がる。それを、山南に差し出した。



「山南さんが出て行った日、お茶飲んでもらえなかったから…」

「そうですか。 有り難くいただきます」


山南の前にちょこんと座り、お盆を横に退けた矢央をチラリと伺うと、赤くなった目元に目がいった。


擦った痕がある。


「どうやら泣かせてしまったようだね」

「……あっ」

「君と初めて会った時は、まさかこんなに時を共にするとは思わなかった。
最初は不安そうに私達を伺い、不安を消すかのように泣いて怒って…」

「その節は、ごめんなさい」



山南が一番最初に矢央を助けてくれたのは、亡き芹沢との初対面の時だ。

新見の態度に怒り、矢央は芹沢にも食って掛かった。

場の収拾をしてくれたのが山南だったこと思い出して、矢央は少し頬を染める。


.
< 104 / 640 >

この作品をシェア

pagetop