駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
一旦部屋へと帰された山南は、障子に写る小さな影に声をかけた。
「寒いでしょう。 中へどうぞ」
「……失礼します」
お盆に乗った湯飲みから湯気が立ち上がる。それを、山南に差し出した。
「山南さんが出て行った日、お茶飲んでもらえなかったから…」
「そうですか。 有り難くいただきます」
山南の前にちょこんと座り、お盆を横に退けた矢央をチラリと伺うと、赤くなった目元に目がいった。
擦った痕がある。
「どうやら泣かせてしまったようだね」
「……あっ」
「君と初めて会った時は、まさかこんなに時を共にするとは思わなかった。
最初は不安そうに私達を伺い、不安を消すかのように泣いて怒って…」
「その節は、ごめんなさい」
山南が一番最初に矢央を助けてくれたのは、亡き芹沢との初対面の時だ。
新見の態度に怒り、矢央は芹沢にも食って掛かった。
場の収拾をしてくれたのが山南だったこと思い出して、矢央は少し頬を染める。
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