駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
「あの頃の君は危なっかしくて見ていられなかった」
そんな昔でもないのに、酷く懐かしげに語る。
湯飲みに口を寄せ、ふう、と湯気を揺らした。
「しかし私は危なっかしい子程目が離せなくて、ついつい世話を焼きたくなる性分みたいでね。 君を何度か叱ってしまったことがあった…」
「それは私が悪かったからで…山南さんは正しい」
「うん、君の良いところはそこだよ。 非を素直に受け入れられる。 だから君が悪いことをすれば叱るし、良いことをすれば褒める…」
膝の上に下がった湯飲みから、山南に顔を向けると、いつものように優しい瞳が眼鏡の奥から此方を見ていた。
日向のように暖かい、癒される優しい笑み。
矢央は、山南のこの笑顔を見ると今は会えない父をたぶらせる。
祖父は厳しい人だったが、父は常にほんわりと微笑み、矢央を見守っていてくれた。
「私を叱ってくれるのは…土方さんや永倉さんや山南さんだけ。 でも怒られた後、甘い物をくれるのは山南さんだけなんです」
「彼らは、辛党だからね」
「…山南さんがいてくれなきゃ…ただ怒られるだけになっちゃう」
「ふふ。 ふう…ごちそうさまでした。 お茶をいれるの上手くなったね」
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