駆け抜けた少女ー二幕ー【完】

(好きな子が泣いてたってのに…。僕、なにしてんのかなぁ…)


「平助さん……」

「なに?」


触れていた手を取り、何かにすがりたくて温もりを両手で包み込んだ。


俯いたままの矢央の顔を、背を屈めて覗いた藤堂は咄嗟の行動をとる。


抱きしめずにはいられない衝動にかられた。

変色しそうなくらいキツく唇を噛み、顔を真っ赤にして震えていた矢央をギュッと腕の中におさめた。



「や…なみさんにね、お茶持って行く約束したの」

「うん……」

「でも…っ…部屋…入れてくれなかったッッ…」

「……」



朝一で山南の部屋を訪ねたが、何度声をかけても山南からの返答はなかった。

仕方なく朝餉の支度をしに来たのだが、タイミングが良いのか悪いのか藤堂が現れたため我慢がきかなくなった。


泣かないと決めたくせに、もう何回破ったのだろう。 と、藤堂の胸に顔を埋め涙を流す。


そして藤堂は、こんな時に何も言えない己の弱さに心底腹が立った。



「……なにかな? なんか外が騒がしくない」

「う……ん?」


矢央が落ち着くまで暫く黙っていた藤堂だったが、何やら前川邸の方が騒がしいことに気がついた。

二人は顔を見合せ、勢いよく駆け出していた。


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