駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
明里は背を伸ばして、どうにか山南の顔を見ようとするも、山南は明里を見ようとはしなかった。
きっと見てしまうと、離れがたくなるからだろう。
「……や…なみはん……」
顔を見るのは諦めたのか、明里は出された手を離すまいと強く握り締めた。
そのまま頬を擦り寄せると、明里の涙にピクリと揺れる。
「うちんこと…っあいしとぉ…っ?」
「……ッッ」
「あの日、桜の下で…山南はんが浪人に襲われてたうちを助けて…くれはらへんかったら…きっと今うちは生きてんかった。
死んでもかまわんっ…思うてたのに…山南はんに出会ってもうて…生きたい…あんお人と一緒におりたいって……っうぅ…」
明里の胸を打つ叫びは、傍にいた永倉、矢央、藤堂に涙を浮かばせる。
鮮やかだった化粧は涙に崩れ、美しい着物は土で汚れ、しかしそんなもの気にならない
「ねぇっ…うちんこと…愛してるっ?」
「……当たり前じゃないかっ! 誰よりも君を、明里を…愛してる」
その言葉が、山南と明里の最期に交わしたものとなった。
すがる明里の手を外させ、山南は戸を閉めてしまった。
心の中で 「すまない」 と、唱えながら。
愛し合う二人の別れを目の当たりにした矢央は、その場に泣き崩れる明里に声をかけることが出来なかった。
それでいいのだろう。 この場で、新撰組の者が慰めたところで、明里には何の慰めにもなりはしない。
三人は明里をその場に残したまま屯所へと引き返した――――
.