駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
そこにあった切腹のために用意された刀。 それは、以前山南が土方に投げつけた己の刀だった。
「…あんたは刀を握れなくなったと言った。 のわりには、その刀今すぐにでも斬れるっつーくれぇ手入れが行き届いてやがる」
土方は庭におりると、山南の前に膝をつき刀を持った。
そして、鞘から刀を抜き出し、ギラリと輝く刃に山南自身を写す。
「刀は武士の命だ。 斬れねぇと言いながら、この手入れの行き届いた刀を見れば、あんたが…山南さんが、ちゃんとした武士である何よりの証拠なんだよ」
「………」
ゆっくりと開かれる瞳。
山南に刀を受け取るように突き付けると 「今度は受け取り拒否はねぇぞ」 と、目で脅す土方。
「武士になりたくないなんざ甘いことは言わせねぇ。
隊の規律を知っておきながらの脱走、そして帰隊。 ならば覚悟はあったはずだな?」
―――切腹という覚悟が。
「……君には、最期まで敵わない」
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