駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
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山南の切腹の知らせがあった日の夜、矢央は沖田の部屋を訪ねた。
声をかけてみたが返答はなく、悪い気持ちもあったが、気になって障子を開けて沖田の様子を伺う。
眠ってしまっただろうか。
だとしたら部屋へ帰ろうと思っていたが、予想通り沖田は起きていた。
暖もとらずに、壁にもたれかかったままの沖田の傍に歩み寄る。
何も言わず沖田の前に座り込んだ矢央を、沖田は虚ろな瞳でぼうっと見つめた。
「……これ、どうしたんです?」
声が掠れていた。
ひんやりした手が、赤く腫れ上がった矢央の頬に触れるとビクリと上下した。
「明里さんに…叩かれました」
あの後どうしても明里が気になって矢央は明里の下に戻ったが、何と声をかけたらいいのか分からず、黙ったままその場から動かなかった。
明里の方から声をかけるが、それは矢央には答えようのない問いだった。
『山南はん…あれから何度呼んでも窓を開けてくれはらへん。 ねぇ、山南はんどないなったの?』
『………』
黙ったままでいると、頬をビリっと電流が走り抜けた。
叩かれたのだと気付いた頃には、明里はもういなくなっていた。
『あんなに頼んだのにっ…人殺しっ』
明里の最後の台詞の方が、叩かれたことより重く強く心に焼き付いた。
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