駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
「こんなに腫れて…痛いでしょうに」
頬に触れる沖田の手は震えていた。 寒さのせいではなく、大切な人を殺めたことに対する代償。
「い…たくないよっ。 こんなの…明里さんや…みんなの方が痛くて辛い…もん」
グッと顔を強張らせ、嗚咽に耐える。
泣いては駄目。
泣きたい人が泣いていないのに、自分が泣いてはいけない。
「…くすっ。 馬鹿ですねぇ、比べるものではないでしょう」
「ッッ!」
ぼろ…と、一筋の涙が頬を伝った。
潤む視界に映る、疲れきった青年の頬にも同じように涙が伝う。
「痛いものは…痛いはずだ。 あなただって…辛いでしょうっ…」
「っおき…ううっ…ぅあ…っ」
堪らなかった。 自分のように声に出さず泣く沖田の姿は、見ている方が堪らなくなる。
沖田は俯きながら言った。
「泣き方を…随分昔に…忘れてしまって……」
トクン、トクンと心臓の音が直ぐ傍でする。
矢央の着物の袖に、水滴の跡が幾つも浮かぶ。
.