駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
何故ここで永倉の名が出るのか、何となくだが分かった。
そしてそれが、今最も土方を悩ませている悩みだということも。
立ち上がれない矢央は、畳に伏せたままで失礼だと思いながらも口を開いた。
「永倉さん…最近はあまり屯所に帰って来ないです。 この間、土方さんに怒られてからはさずかに外泊はなくなりましたけど、帰ってくるのはいつも朝方だし」
「そうか……」
池田屋事件の辺りからだった。
永倉の近藤に対する態度が日毎に悪化するのは。
隊務を怠ることも稽古を怠ることもないが、たまに昔の仲間で飲みでもしようとすれば永倉だけは姿を見せないことが度々あり。
近藤と擦れ違っても、軽く頭を下げるのみで最近では会話すら交わさない。
「永倉さん、近藤さんと喧嘩でもしたんですか? そういえば、この話をしたら原田さんや斎藤さんも口を閉ざすし」
「…否、喧嘩ってもんじゃねぇさ。 ただ人間がこんな狭い場所で常に共に暮らすんだ、それなりにいざこざはあるさ」
「なんか違うんですよね。 私が此処にきた頃は、みんなまるで本当の家族みたいで、凄く羨ましかったのに。 今は、少しずつバラバラになってるようで…」
寂しいです…。 と、小さく呟くと、畳を擦る音がした。
チラッと顔を上げた矢央の傍には、土方が足を崩して座っていた。
「土方さん…またみんなで楽しくご飯が食べたいなぁ」
最近の食事には、永倉原田斎藤、そして床に伏せる沖田は滅多に姿を見せない。
賑やかだった食事時が、いつからだったか寂しく感じるようになったと矢央は思う。
「そうだな。 ふ…たまにお前のその素直さが羨ましく思えるぜ」
こうして素直に感情を表現できなくなったのは大人になりすぎたからだろうか。
土方は、珍しい行動に出る。