駆け抜けた少女ー二幕ー【完】

***


「平助さん」


勝手場にいるとばかり思っていた藤堂は、壬生寺にいた。

矢央に呼び掛けられ顔を上げた藤堂の表情は、何を考えているか読み取れない。


「隣良いですか?」

「…いいよ」


矢央は藤堂の隣に座ると、チラリと横顔を見てから、また前方に視線を向ける。


雪が溶け、少しずつ春が近付く景色。


「平助さん、大丈夫?」


また、藤堂に視線を向けた。


膝の上には握られた拳、その拳をひたすら見つめる藤堂は、難しい表情から笑みに作り変えた。

わざとらしい、引き吊った笑顔だ。



「ん。 大丈夫だよ」


大丈夫には見えない様子に、矢央の眉が寄る。


「……無理しないで下さいね」


遠慮がちに言われた藤堂は、左右に目を泳がせた後、悲しげに微笑み、その笑みに矢央の胸はチクリと痛む。



「…無理でもしないと、僕は僕の役目を果たせなくなるじゃん」


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