駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
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「平助さん」
勝手場にいるとばかり思っていた藤堂は、壬生寺にいた。
矢央に呼び掛けられ顔を上げた藤堂の表情は、何を考えているか読み取れない。
「隣良いですか?」
「…いいよ」
矢央は藤堂の隣に座ると、チラリと横顔を見てから、また前方に視線を向ける。
雪が溶け、少しずつ春が近付く景色。
「平助さん、大丈夫?」
また、藤堂に視線を向けた。
膝の上には握られた拳、その拳をひたすら見つめる藤堂は、難しい表情から笑みに作り変えた。
わざとらしい、引き吊った笑顔だ。
「ん。 大丈夫だよ」
大丈夫には見えない様子に、矢央の眉が寄る。
「……無理しないで下さいね」
遠慮がちに言われた藤堂は、左右に目を泳がせた後、悲しげに微笑み、その笑みに矢央の胸はチクリと痛む。
「…無理でもしないと、僕は僕の役目を果たせなくなるじゃん」
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