駆け抜けた少女ー二幕ー【完】


矢央の頭を持ち上げると、何を思ったのか己の膝に寝かせたのだ。


「たまにはいいだろ、こういうのも」


初めてこの時代に来た時、暇だと言いながら土方の部屋に度々訪れては土方の膝に頭を勝手に乗せて寝ていたことがある。

その度に、小言を散々言われていたが、いつからかそれがまるで子守唄のように心地好いものに変わっていたから不思議である。



「久しぶりですね。 土方さんの膝枕ゴツゴツだぁ…」

「文句言うんじゃねぇよ。 この俺様の膝枕で眠れるのはお前だけだ、有り難く思え」


たっぷり怒った後で、こうしてたっぷり甘やかす。

これだから悪戯を止められないのかもしれない。


「昔は、総司にもしてやったがな」

「沖田さんに?」

「ああ。 近藤さんに構ってほしかったんだろうが、近藤さんはいつも忙しなく動いていてよぉ。 だから総司がふてくされて、そん度にこうして寝かしつけてた」

「へぇ。 あの沖田さんも、実は甘えたさんだったんですね」


頭を撫でられる心地好さに、意識がトロンと落ちていく。


「今だって、十分甘えん坊だかな」

「ん〜……」


夢の中に落ちていく矢央に優しく微笑みかけながら、土方は幼い沖田と矢央を重ね合わせた。

「俺も、ただの甘ったれた男かもな」


こんなことをしている場合ではないのに、鬼の副長の威厳すら無くさせるほのぼのとした空間に土方は暫し安息を求めた。


変わってゆく時代。

変わってゆく己たち。

だが願う、お前だけはどうかこのままで――――と。


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