駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
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三月半ばの新撰組屯所は、朝から大騒ぎだ。
前日に荷造りを済ませていた物を借りて来た荷車を乗せ、数回に分けて西本願寺へと運ぶ。
「あ〜、これで三往復目。 もう疲れたぁ…」
「隊士が増えた分、荷物も増えたからなぁ。 あ〜、腹減った」
ガラガラと引かれる荷車に荷物と同じように乗り、矢央は浮かせた足をぶらぶらと揺らす。
その傍で、頭の後ろに手を当て愚痴を溢すのは藤堂だ。
どう見てもやる気のない二人に対し、我慢していた彼の堪忍袋に限界が近付いていた。
――――ガコンッ!
「おわっ!?」
突然上がった目線に驚いて、崩しかけた体勢を直す暇なく頭に拳骨が落ちてきた。
頭が痛い。 燃えるように痛い頭を押さえ、涙目になって気配を辿ると目の前にいた藤堂もまた頭を押さえていた。
「ぬぁぁにぃぃぅがぁぁっ、疲れただ! 腹減っただ! 馬鹿野郎共っ! てめぇらが手伝ったのは、最初だけで後は邪魔しかしてねぇんだよっっ!!」
「いってぇー! つぅか、新八さんっ、左之さんがっ!」
「ああっ?」
サボってばかりいる二人を殴るために荷車の前にいた永倉は、今は矢央と藤堂の前にいる。
つまり、今実質荷車を支えているのは原田だけとなり………。
「ぐぎぎぎぎっっ! おめぇらぁぁ覚えてろよぉぉぉっ!」
「げっ…」
一人で荷物と矢央を支えている原田の顔は真っ赤になり血筋が浮かび、まるで赤鬼である。
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