駆け抜けた少女ー二幕ー【完】

沖田のおかげで門を通る事が出来た大男は、近藤の部屋に案内してくれる目の前の細い青年を見下ろした。



「私は沖田総司と言います、松本良順先生」


名を尋ねようとした時、先に振り返り名を名乗った沖田に松本は驚いた。

初対面なはずの彼が、どうして会ったことがあるかのように接し、そして一番隊隊長ともあろう者が背を向けているなどと。

「君は、私を警戒しないのかい?」

「え? 松本良順先生ではないのですか?」

「い、いや、確かに私は松本だが……」

「ならば警戒する必要はありません。 何故なら、近藤さんが松本先生は素晴らしいお医者様だと仰っていましたからね」


長い黒髪を靡かせピタリと立ち止まった沖田は、にこっと愛嬌のある笑みで松本を見上げた。


「それに、その目を見れば分かります」

「目?」

「はい。 貴方は、近藤さんを裏切るようなお人ではない…とね」


優しい笑み、しかしその双眸の奥には強い信念の色が隠れている。


「話に聞いていた通りのようだ。 近藤さんは、信頼できる多くの仲間がいると言っていた」

「ふふ。 近藤さんはお人好しですから、私達がしっかりしなきゃ大変なんですよぉ」


和む会話が盛り上がり始めた頃、沖田は襖の前に立ち住人へと声をかけた。


「近藤さん、総司です! 松本先生をお連れしましたよー」


声をかけて数秒と待たずに、ドンッと勢い良く襖は開き、中から慌てて顔を出したのは新撰組局長・近藤勇である。


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