駆け抜けた少女ー二幕ー【完】

「松本先生!よくぞ来て下さりました!! ご連絡を下されば、お迎えに上がりましたのに…」

「たまたま今日此方に伺えただけですからな、お気に為さらず。 それより……」



松本良順。 幕府医学所頭取である彼とは、近藤が江戸へ行った際に知り合いとなった。

松本はつるりと光る頭を撫でながら、土方と共に部屋へと訪れ茶を差し出す、新撰組にしては愛らしい小柄な少年へと目を向けた。


「お茶をどうぞ」


松本の前に湯呑みを置き部屋を立ち去ろうとした少年だったが、松本に手首を掴まれ去ることが許されない。


「あ、あの……」

「松本先生?」


困惑する少年と近藤。

松本は、じっくりと少年を見定めている。

そして土方は、お茶を一口飲み込むとコホンと咳をした。



「さずが先生様だ。 他の野郎は誤魔化せても、身体を診るのが専門な方には誤魔化しがきかねぇときた」

「え? 歳…それは…」

「君は女子だね?」


困惑顔から驚愕顔に変え、少年のフリをしていた矢央は土方に顔を向けた。

すると土方は 「誤魔化しがきかねぇと言ったろ」 と、瞼をとじた。



「は、初めまして! 間島矢央と申します!」

「元気がよくて良い。 むさ苦しい男ばかりだと聞いていたから、少し驚きましたがな!」

「すみません。 これには訳がありまして…」


話す事が出来ないと申し訳なさげに頭を下げる近藤だったが、松本は気にする素振りすら見せなかった。


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