駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
誰もが寝静まった深夜、小さな物音に眠りから覚めた。
何の音かと部屋を見回すが、皆静かに眠っている。
チラッと廊下側を見ると、障子に月明かりによって照らされた背中が見えた矢央は、周りを起こさないように気を払いながら部屋を出た。
「永倉さん、今帰ったんですか」
縁側に腰掛け月を眺めていた永倉の隣に腰を下ろす。
永倉はチラッと矢央を見るが、また月を見上げた。
「起こしちまったか」
「昼にいっぱい寝ちゃったから、眠れなくて」
「そうか…」
永倉からは酒の匂いが漂っていて、また飲んできたのかと溜め息を漏らす。
最近の彼は、明らかに様子が可笑しい。
難しいことは分からない矢央にも、何かあることくらい察しがつく。
「今日ね、沖田さんと外出したら原田さんが女の人といるのを見かけたんですよ。
すっごく可愛い人で、二人ともすごく楽しそうだった」
「………」
「あ、でも…私また失敗しちゃって二人のデート…えっと逢い引き?かな、邪魔しちゃって。
そしたら原田さんに怒られるは、沖田さんは倒れちゃうは、土方さ…」
「よしてくんねぇか」
「え……」
今日一日の出来事を語る矢央を止めた永倉は、まだ飲み足りないのか何処からか持ち出した盃を煽った。
十分飲み過ぎなはずなのに、更に飲んでしまう。
そんな永倉を見つめ悲しくなった。