駆け抜けた少女ー二幕ー【完】

「永倉隊長! お先にどうぞ!」

「うん?」


矢央と話していた永倉は、前に並んでいた平隊士に先を譲られ方眉を上げると。


「否、お前のが先に並んでたんだ。 隊長だからって、譲る必要はねぇぜ」

「し、しかし…」


この男の顔には見覚えがない。
最近入隊した隊士なのだろうと永倉は思いながら、気をきかせてくれたのであろう隊士にお礼を言う。


「ありがとよ。 でも、気遣いご無用」


にっと、口角を吊り上げ笑う永倉に、隊士は照れ笑いを見せた。

そして一礼すると前を向き、順番をひたすら待つのだった。



「そういや、平助がいねぇな? あいつは終わったのか?」

「平助さんは、まだ巡察から帰ってないですよ」

「ああ、そうか」

「はい」

「……」

「……」


会話が続かなくなり、永倉は頬をかきながら天井に目をやり、矢央は足で床に幾つかの丸を描いた。

気まずい雰囲気というわけではなく、良く考えればここ最近永倉と二人で話すことがなかったので、話題が思い付かない。


ああでもない、こうでもないと話題を考える二人。



「……なあ」

「あ、はい!?」


先に口を開いたのは永倉で、ビクッと肩を揺らし振り向く矢央。


.
< 142 / 640 >

この作品をシェア

pagetop