駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
「そりゃ辛ぇさ。 あんな好い人がいなくなるはずねぇって思った。 けどな、俺は終わったことを振り返る主義じゃねぇ。
ただ前を向いて歩くしか出来ねぇからよ。 それをきっと、あの人は見ていてくれんだろ」
昔も言っていた。 過去を見ない、と。
それは、ある意味辛い事かもしれない。
「お前も強くなったな。 てっきり落ち込んで手がつけられなくなるかと思ったが、その心配はなかったようだ」
ぐしゃぐしゃと大きな手で頭を撫でられた矢央は、ああそうかと目を見開いた。
永倉は、確かに過去を振り返らないかもしれない。
しかしそれは、振り返りたい時でも敢えて振り返らないのだと気が付いた。
「大丈夫です。 私はもう大丈夫。 落ち込むこともあるけど、決めてるから…」
"この目で、皆の生きる道を見ていく"
沢山悩み迷って、ようやく矢央が辿り着いた己の"誠"だ。
疑問符を浮かべている永倉を優しく見つめ、矢央は言った。
「時々は肩の力を抜いて、弱音を吐いて下さい。 一人じゃ大変でも、二人なら多少は楽になるはずだから」
「!!」
己が落ち込んでいたら、誰が皆を励ますんだ。
永倉は、多分そんな役柄なのだろう。
兄貴肌な永倉は、真っ直ぐで仲間思いで、己が正しいと思ったことを突き通すので、たまに人とぶつかることもある。
しかし彼は、己より仲間を優先し、辛い時こそ皆を引っ張ろうとする。
それを知っているから、よく衝突する土方も永倉を頼り認めているんだろう。
.