駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
「そ、そういえば平助さんが、今度美味しい団子や見つけたからみんなで行こうって」
よせと言われても、何か場を保ちたくて話題を探す。
永倉から笑顔が消えたのはいつからだったか、と思い出していた。
「ん〜…。 そだ! 永く…」
「止めろって言ってんだろ。 今はお前の話を聞きてぇ気分じゃねぇんだ」
グサッと胸に突き刺さる言葉。
永倉が矢央にこんな態度をとるのは珍しいことで、鬱陶しそうに眉間に皺を寄せている。
きゅーっと、胸が締め付けられる。
「どうしちゃったんですか…。 永倉さんらしく…ない」
口は悪いが面倒見がよくて優しい兄貴といった感じの永倉が、最近は一匹狼のように孤立している。
たまに誰かと接していても、ごく一部で、こうして矢央と話すのも久しぶりなくらいだった。
風に前髪を揺らし、永倉はふっと口角を上げる。
「俺らしくってなんだ? 俺のことは俺が一番わかってる。 お前は、俺の何を知ってる?」
「それは……」
目も合わせない永倉に、どう接していいのかわからず俯いてしまう。
膝を抱え、顔を埋めてしまった矢央を永倉は気にする余裕すら無くしてしまっていた。
飲み過ぎたか。 と、口元に手を押しあてながら考える。
「…矢央、悪かった。 少し酔いすぎたみてぇだ」
「………」
今度は矢央が口を閉ざしてしまった。
隣にいる小さな少女は、見るからに大人たちに気を使っているとわかる。
否、自分がそうさせているのだろう。
「俺はよ、昔の近藤さんが好きだった。 試衛館時代の単純で、でも仲間想いなあの人だから、共に着いて行こうと思ってた」
顔を上げ、庭を見つめる矢央は永倉の話が全て過去形であることが気になった。