駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
白い頬に手を伸ばす。
沖田は、拒むことなく小さなその手を受け入れる。
「その顔は、聞いてしまいましたか。 すみません、あなたには心配させてばかりだ」
芹沢の時も、お華の時も、山南の時も、辛い時に傍にいてくれた矢央。
頬に触れた指先が微かに震えていた。
「どう…して笑っていられるの?」
何かと辛い事に巻き込まれている沖田だが、矢央が見る沖田は笑顔が多い。
「ふふ。 私は単純な男ですからねぇ、こんなに可愛い女子に心配されると嬉しくなるんですよ」
「冗談…言ってる場合じゃないっ」
ギュッと拳を作り、手を引っ込める。
沖田は矢央に背を向けて、また桜を見上げた。
「単純なのも本当。 矢央さんを可愛いと思うのも本当。
でも……心配されるのは、本当は嬉しくない」
「え……」
「心配される程、私は弱くないですからね」
低音が心に響いてくる。
告知される前から、己が死に至る病ではないかと薄々気付いていた沖田。
「死に至る病だからなんだって言うんだ。 私は戦える、まだ剣を握れる、まだ花を眺め、人と会話し、美味しいものを食べられるじゃないですか」
「おき…たさんっ」
ドンッ!と、背中に重みがのしかかり、それが矢央に抱きつかれたのだと気付いた沖田は、腹に回された手に己の手を重ねた。
「こうして、あなたの手を握り」
前へ向き直り、今度は沖田が矢央を抱き締めた。
「こうして、あなたを抱き締めることもできる」
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