駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
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「本日は良い天気に恵まれた! 良い花見日和だ、存分に楽しんでくれ!」
近藤の挨拶により、新撰組の花見は始まった。
杯を打ち付け合い、酒を飲み交わし、旨い料理に舌を喜ばす。
新しい屯所の庭に、幾数にも並ぶ桜は見事だった。
「山南さんも見てるかな〜」
ぽつりと発した言葉は、隣に座っていた沖田に届き、矢央につられて桜を見上げる。
「ええ、きっと見ていますよ」
ひらりと舞い散る花弁が、杯の中に一枚入り込む。
「………」
「土方さん、なにぼんやりしてるんですか?」
「ん? ああ…良い句が出来るかと思ってな」
あまり酒に強くはない土方は、永倉や原田と違い少量ずつ酒を飲む。
普段は結っている髪を結わず、長い髪が肩からずり落ちた。
「土方さんって、時々ロマンチストですよね」
「ろま…ん? なんだそれは」
幕末では分からない言葉を発してしまい、しまったと舌を出す矢央に土方は尋ねる。
隣の沖田も、初めて聞くそれに興味津々だ。
「ロマンチスト! そうだな…夢とか空想とかを好む人ってか。土方さんの句って、なんか上手くはないけど、暖かいものが溢れてそうってか…」
人差し指を唇に当て思考する矢央の隣では、土方の頬がみるみるうちに紅潮していく。
明らかに酒のせいではないと分かった沖田は、面白い玩具を発見した子供のような笑みを浮かべた。
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