駆け抜けた少女ー二幕ー【完】

「土方さん、土方さん」


惚けている土方を呼び、「なんだ?」 と此方を見ると、にんまりと笑み作る口許に手を添える。

「喜んでいるとこ悪いんですが―…」

「ばっ、誰が喜んでんだっ!」

「はいはい。 それで、何気に矢央さんが、土方さんの句が下手だと言ったのには、ちゃんとお気付きですよねぇ?」


大きな瞳で顔を赤くする土方を見上げ少し首を傾げると、暫く沈黙が続く。

だいたい三秒だろうか、土方の熱は違うものとなって矢央に向けられたのだった。


「てめぇ! 句がなんたるものか知りもしねぇ奴が、生意気に評価してんじゃねぇよっ!!」

「はっ? え? なんで怒ってんですかぁぁ?」

「クスクス」




土方に頭を鷲掴みにされ怒鳴られている矢央と、その二人を腹を抱えて見物している沖田ら三人から少し離れた場所で、桜の木に持たれながら杯をグイッと持ち上げたのは藤堂。

最近あまり調子がよくない彼は、先日の診察では特に悪いところはないと診断されている。


普通ならば喜ぶべきなこの結果に、何故か藤堂は不服を唱えたい気持ちであった。



「…チッ。 よく笑ってられるよなぁ」


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