駆け抜けた少女ー二幕ー【完】

『なんかダルいんです。 常に眠たい感じ? でも、寝るのは…』

――闇に呑まれそうで恐ろしい。


藤堂の身体は健康。

池田屋での額の傷も、すっかり塞がっている。

風邪の兆候も一切ない彼に、松本が思ったのは"心の病"であった。



「おぉい、平助ぇ! 平ちゃ〜ん! 飲んでましゅか〜?」


酔って上機嫌な原田に絡まれても、藤堂の顔は無に近く、逆に苛々しているようにも見えた。

酒臭い顔を近付けられ、ぐいっと顔を押し退ける。



「なんだよぉぉ、つれねぇなぁ」

「つぅか野郎にくっつかれて喜ぶ野郎は危ねぇだろ。 なあ、平助ぇ」


ほんのり頬を染めながら何処からか戻って来た永倉は、原田とは反対側の藤堂の隣に腰を下ろした。

強引に杯を持たせ、またも強引に酒を注ぎ、自分よりはるかに酔っている原田にも酒を注いでやる。


「何に対し機嫌悪くしてんの知らねぇがよ。 ま、とりあえず飲めや。 んで、話してみる気はねぇかい?」


たっぷり注がれた液体は、口に運ぶ前に少量腕に伝う。


「…自分でもよく分かんないっつぅかさ。 考えたいことが纏まらないってのに、次から次へと増えちゃって。 あ〜…参るなぁ、もう…」

「難しく考えすぎなんじゃねぇの?」

「そうだそうだ! 男は考えるより、まず動けばいいんだ!」

「いやいや、左之君みてぇに考えなしに突っ走ってると痛い目みますよ」


顔の前で手を左右に振ってみせる。


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