駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
"彼女がね、桜が咲いたら私に見せてくれると言ったから。 だから、あの世に行くのを少し待ってもらったんだ"
そんなことあり得るのか?
不可思議な出来事に驚いたが、お華の事を思い出しあり得ると妙に納得した。
矢央には見えていないのか、酔っぱらいの原田に絡まれている彼女を見て山南は話を続ける。
"私は己のした事に悔いはない。 けれど、私のした事によって迷わせてしまったようだね、藤堂君"
「やま…ンぐっ!」
名前を呼ぼうとした藤堂の口を永倉が塞ぐ。
「どうかしました?」 と、不思議がる矢央に首を振った。
それでも詰め寄る矢央の頭を山南が撫でているなんて、当の本人は気付いていない。
"迷うのは決して悪いことではなくてね、その過程で沢山の事を学び、そして悔いのない結論を出すことだよ。
死んだ私に言えるのは、これくらいかな……"
「ねぇ、さっきから二人共可笑しいですよ?」
「そりゃあ、いつものことだぜ! ガハハハッ!」
「もうっ、原田さん酒臭いっ!」
"藤堂君、永倉君。 勝手な事をしてしまった私を、どうか許してほしい。 そして、この子を…真っ直ぐで汚れがない矢央君の心を、どうか守ってやってほしい"
頭を下げた山南は、原田から逃げる矢央を守るように腕で包み込んだ。
その表情は何故か苦しげで、胸騒ぎを感じずにはいられない。
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