駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
楽しかった試衛館時代とは違い、楽しいだけでは成り立たなくなったことくらいわかる。
新撰組として次第に位を上げていく近藤が、浮かれたい気持ちもわからなくはない。
しかし、最近の近藤の行動は目に余るものがあった。
以前ならば、仲間と共に朝まで酒を交わしながら夢を語り合い、共に鍛練を積み、共に歩いていたはずだ。
しかし今は、顔を合わせれば 「新撰組のため」 「私のため」 と顎を突き上げる始末。
廊下ですれ違っても、今の近藤は頭を下げることはない。
こちらが頭を下げれば 「うむ」 と得意気な顔をして去って行く。
「地位っつぅのは、ああまで人を変えちまうのか。 俺は武士に憧れがあったわけじゃねぇ、ただこの腕を試せる場所がほしかっただけだ」
そんな話を、昔の近藤ならば 「そうかそうか」 と頷いてくれたはず。
「だが今はどうだ、武士とは左幕とはって。 何でも上からものを言いやがる。 何も知らねぇ馬鹿とでも思ってんのかよ…」
珍しく永倉が溢した愚痴は、新撰組に対するもので、このままの新撰組には己の居場所はないと語っているかのようだった。
「永倉さんは、近藤さんを嫌いになっちゃったの?」
「…今の近藤さんなら、嫌いだな」
「そっか。 でも近藤さんは、嬉しいんだよ。 沖田さんが言ってた、確かに最近の近藤さんは変わってきてるけど、それはみんなの働きが認められて褒められることが嬉しいからで、根本的なところは何も変わってないって」
そう語った沖田も、どこか寂しそうだったことは言わなかった。
遠い存在のように思えたからか、それでも沖田にとっては近藤は近藤に代わりない。