駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
真面目な話をしている男達の耳を鈍い音と、悲痛な叫びにならない声が掠めた。
なんだ(?)と、そちらを見ると原田が股間を押さえ涙目で矢央を睨んでいる。
「お、おい、どうした?」
「ぐっ…矢央ぉぉお前、そんな卑怯な技何処で覚えたぁぁっ」
どうやら絡んでくる原田に腹を立てた矢央は、男の急所を蹴って防戦したらしく、原田は震えながら矢央に手を伸ばす。
「ああ、えっと……」
「わあ、原田さん大丈夫ですか? てかそれ教えたの、多分あの人ですよ」
またも面白いものを見つけたとやって来た沖田が、目を反らす土方を指差していた。
皆が一斉に土方を見れば、
「ンだよ、戦となりゃ目潰し金蹴り何でもありだ」
と言って、頭をかいている。
「土方さんんんんっ! 犯人はあんたかよっ!」
「土方さんらしいけどな」
どっと笑いがおこり、一瞬気がそれていたが山南の存在を思い出した永倉、藤堂は山南の姿を捜した。
が、彼はいつの間にか消えていた。
「山南さんっ」
「ばっ、平助!」
まだ話したい事が山程あったのに、と藤堂は唇を噛み締める。
切なに揺れる瞳を、原田から逃げて来た矢央が覗き込んだ時だった―――……。
"彼女を、頼んだよ"
「!!」
「平助さん?」
今にも泣きそうだった藤堂の表情は、矢央を視界に捉えると次第に落ち着きを取り戻していく。
伸ばされる腕に矢央が抱き締められた時には、笑みが僅かだが見えていた。
「あ、あのぉ……」
「大丈夫。 それだけは、僕も心に決めていたから」
(山南さん、矢央ちゃんは必ず守るよ。 だから安心して下さい)
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