駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
第四話*桜の宴
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「う〜っ、ちょっと酔ったかも」
土方に酒は禁じられているため実際は飲んでいないが、周りに酔わされた気分だ。
澄んだ空気を吸いたいと、宴会場から離れた場所にやって来た。
階段に腰掛け、見事な桜を眺めていた矢央は更に上にある青空へと笑みを向ける。
(山南さん、芹沢さん、見てますか。 今年も綺麗な桜が咲きましたよ)
ザアザアと桜が風に揺れたの見て、二人が答えてくれたのかと思い嬉しくなる。
見事な桜は、新撰組に栄えると矢央は思いに更けていた。
「間島さん…でしたっけ」
「ん?」
瞼を閉じ、心地よい風に髪を遊ばせていた矢央は知らないその男に首を傾げた。
にこやかに笑う男は、二十代半ばといったところか。
細身で優しげ、少し沖田に似ているかもしれない。
「僕は、熊木太助と申します。 隣宜しいですか?」
熊木と名乗る男は、丁寧な口調と目配せし、矢央は断る理由もないので 「どうぞ」 と、一人分のスペースを提供した。
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