駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
ジッと、見つめてくる熊木との間に花弁が舞った。
ひらひらと舞う桜の花弁を目で追いながら、あることを思い出す。
そういえば、男として過ごしていたような気がする。
誰かに強制された訳ではないが、男所帯で生活しているうちに矢央自身が男として過ごす方が何かと良いと判断した。
着物なども女物ではなく男物を着ていた方が動きやすかったし、矢央の態度もこの時代では女性らしくないのが上手く周りを誤魔化している。
「あ〜、んと、気をつけます?」
「あはは! 何故聞き返してくるんですか? 意味をご理解なされていないようですね。
でもまあ、間島さんはお強い味方の方が大勢おられるから大丈夫かな?」
「ん?」
やはりどことなく沖田に似ているな、と思いながら、熊木の後ろから歩いてくる男に気づいた。
斎藤一は厠に行くため宴会を抜けたのだが、酔い覚ましに庭を歩いていると、たまたま二人を発見する。
「あ、斎藤さーん!!」
斎藤を見つけた矢央は、熊木をその場に残し斎藤に駆け寄る。
「…間島か。 こんなところで何をしていた」
「ちょっと空気に酔ったんで、酔い覚ましです」
「そうか」
チラリと視線を上げると、腰を上げた熊木が頭を下げている。
つい先日入隊した顔ぶれの中にいたな、と記憶力の良い斎藤は名を思い出すと 「熊木だったな」 と声をかけた。
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