駆け抜けた少女ー二幕ー【完】

現代にいた時から武道を足しなんでいた矢央は姿勢も良く、礼儀も正しい。

町にお使いに出れば、その低姿勢で明るく愛らしい少年の姿は、隠れた人気を広げていたらしい。


「そういやぁ、うちの若い奴も朝の訓練前に、矢央が一人で木刀振り回してんの見て"可憐だ"とか意味分からんことぬかしてな」

「意味分からんって、失礼だなあんた」

「"あんた"だぁ? 誰に言ってんだコノヤロウ!」

「ほえんなひゃいぃ」


永倉に両頬を引っ張られる矢央を、心配そうに見つめていた藤堂は溜め息を吐く。

剣術を知らない矢央の木刀を振り回す姿に"可憐"という言葉が当てはまるのかは捨て置き。

でも、身体を動かし汗を流す姿は懸命で美しいと思っても仕方ないかもしれない。

なんせ、矢央は紛れもなく女であるのだから。


「いっそのこと女だとばらせばいいんじゃねぇのか?」

と、原田が言えば、

「新撰組隊士に女がいると言えと言うのか」

と、鋭い土方の視線が投げられる。

「女隊士ってかっこいいかもしれないですねぇ」

「本気で言ってんのか? 総司」

「冗談ですよぉ。 私だって、女子には女子らしく危険のない場所にいてほしいですから」


けれど既に矢央は隊士として危険な状況にあり、その上女だと知られてしまうとややこしいことが起こること間違いなし。

しかし、男としてもややこしいことが起こりそうなので、どうしたものかと悩む。


「う〜ん、てか私が気をつけていれば良いだけの話ですよね?」


己の事について今まで談義していた男達に、矢央は意外と呆気なく物申す。


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