駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
男達の視線を一気に浴び、矢央は平然とした態度である。
「何を心配してくれてるのかよく分からないんですけど、私そんなに弱くないですから」
上半身を仰け反らせ、両手を地につける。
真後ろの桜を見上げると、暮れ始めた夕日と合体してより美しく見えた。
「そりゃあ、みんなにしてみれば子供だし女だし。 だけど、私だってそれなりに身体を張れますよ? 自分の身くらいは守れるようにって、小さい頃からお爺ちゃんに厳しくされてきた分、この時代の女の子よりは戦えるだろうし、それに……」
にっと、口許に軽く笑みを浮かべる矢央は少女ではなく少年に見え、男達は唖然とその桜を背に纏う彼女をみやる。
綺麗でいて、逞しく見えた。
「迷いはなくなりましたから。私はもう守られるだけのお荷物にはなりませんし、なりたくもない」
「お前…」
誰かが、呟いた言葉は風にかき消される。
「大丈夫ですよ〜。 か弱いお姫様は、新撰組には必要ないでしょう?」
グイッと、上半身を持ち上げてニカッと白い歯を見せて笑った矢央に、土方はクツクツと笑ったかと思うと、
自らが禁止していた酒を、矢央の前に置かれていた湯呑みに注いでいく。
.