駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
『テメェを一人前と認めさせたら、その時は俺様直々に酒を注いでやる』
――ああ、そうなのか。
カツンと、杯同士がぶつかり、男達が一気に酒を飲み干す。
――ああ、そういうことか。
ゆっくりと湯呑みを口に運ぶと、喉が熱く焼けた。
「…っこほ! こほ!」
「おいおい、せっかくの旨い酒にむせんなよ」
「美味しくない…」
「ははは! やっぱり、ガキじゃねぇか! これの旨さが分からねぇたぁ可哀想だぜ」
「ぶう…」
周りが笑う。
子供だと笑う。
だが分かっている。
此処に来て、新撰組に入って今初めて認めてもらえた。
本当の本当に、仲間として、大人として、誰よりも厳しい土方に一人前と認めてもらえた。
久しぶりの酒は、じんと胸に染みる。
「…っ…」
「おいおい、なに泣いてんだテメェは」
「っ違いますよ! 目にゴミが入っただけだしっ!」
「へえ、ゴミがねぇ」
グイッと、濡れた目許を拭い目の前の土方を見ると、その手には徳利が掴まれクイクイと上下に揺らされる。
「まあ、旨さが分かるのは、まだまだ先のようだな」
「…下手したら一生ないかも」
「そりゃあ、勿体ねぇ話だぜ」
夕暮れに照らされた桜は、これから先も変わらぬ姿で彼等を見守ってゆくだろう。
新たな危機が迫る春、薄々感じる予感に不安はあるが、大丈夫。
きっと大丈夫。
この日、矢央は心の底から思った。
新撰組に出逢えて、彼等の仲間となれて良かった―――と。
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