駆け抜けた少女ー二幕ー【完】

呑気な性格の矢央でも、さすがにこの状況には慌てて頭が混乱しているのか、頭からお湯をかぶったままの体勢で、


「…身体を隠せっつぅの」

「あぷっ!」


湯に浸かっているため、入口で固まっている藤堂には白い肩までしか見えなくとも、傍にいる永倉には全て見えてしまっている。


大人の男である永倉には見慣れた女の身体といえど、目のやり場に困り、近くに掛けてあった手拭いを矢央に投げた。



「平助、お前もいい加減隠せ」

「へ? 隠せって…うわっ、ごめん!」


永倉に言われてようやく気付いた藤堂は、慌てて戸を閉めた。


―――チャプン……



「……また見ちゃった」


一度目は松本が屯所を見回りしている時、二度と見たくないと恥ずかしい思いをした記憶はまだ新しい。

なのに案外早く、また見てしまった矢央は、ブクブクと頭まで湯の中に入っていった。



(最悪だ……)


脱衣場で頭を抱える藤堂に、同情を覚えた永倉は 「間に合わなくて悪かった」 とだけ言うと、藤堂に続き浴室から出る。


直ぐに藤堂の背が視界に入り、ポンッと肩を叩いた。


「うん。 喜びてぇが、手放しでは無理だわな」

「うるひゃいよ…新八はん…」


鼻を摘まんでいた藤堂に、永倉がかけた最初の言葉は、矢央には到底聞かせられないことであった。


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