駆け抜けた少女ー二幕ー【完】

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「…平助ンとこの隊士に偶然出会さなかったら、矢央が女だって屯所中に広まってただろうな」


あの場に永倉がタイミングよく現れたのは、たまたま廊下を歩いていると風呂上がりの隊士に出会い藤堂が向かったと聞いたからだ。

矢央が風呂に向かった事を知っていた永倉は、慌てて風呂場に向かったのだが間に合わなかった。


「女の声は響くからな。 永倉がその場にいなければ、貧相とは言えど隊士達の前に身体を晒すはめになっていたかもな」

「土方さんまで貧相とか言うな…」


以前山崎にも言われた台詞だ。



「ご、ごめんっ! 僕、入ってること知らなく…てさ」

「いえっ、それは仕方ないから…」


ごもごもと口ごもる二人がいる室内は、何とも言えない雰囲気である。

永倉も土方も、藤堂の矢央への想いを知っているため複雑な気持ちだろうと、同情心に近いものを感じていた。



「なあ、土方さん。 今回は俺達だったからまだ良いが、これが他の奴等だったら取り返しがつかねぇ事態になっていたかもしれねぇ」


俯いている矢央の頭に手を乗せた永倉は、今更ながら男所帯の危険をおもいしる。


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