駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
幸い藤堂だったから良い。
これが何も知らない隊士だったらと思うだけで恐ろしい。
羞恥と困惑はしているものの、この度の件に恐怖は感じていないことに安堵した。
細い髪をぐしゃぐしゃとすれば、いつも通りの膨れっ面が此方を見上げてくる。
「…見張りをつけるか」
「そ、それ、僕も賛成!」
「それしかねぇか」
新しく女湯を作るわけにもいかないならば、見張りをつけるしか手がないだろう。
天井にユラユラと立ち上る紫煙を見つめる土方に、恐る恐る手を上げた矢央は複雑な思いだ。
「なんだ?」
「いえ、悪いなぁ…と思って」
「良い悪いの問題じゃねぇ」
迷惑をかけたくないと思ってしまう。
その気持ちに気付いている土方は、未だに濡れている髪を拭くように指示を下した。
「それによぉ、これに関しては俺の配慮が足りていなかったんだ。 すまねぇな、矢央」
髪と手拭いが擦れる音を何となく聞いていた矢央は、ふと聞こえた謝罪に一瞬固まった。
息を吸うのと同時に顔を上げれば、土方は既に見張りについて永倉や藤堂と話していた。
(土方さんが、謝るなんて…)
土方が悪いんじゃない。 ただ互いに注意が足りなかっただけのこと。
しかし辛いのは女であることを分かっていた土方は、このことを己の配慮の無さのせいにし、それで藤堂を許してやってほしいと謝ったのだろう。
恥ずかしい思いはしたが、何だか心暖まった日だなと思えた矢央であった。
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