駆け抜けた少女ー二幕ー【完】

掃除を終えた矢央は、沖田の好物を手に入れるべく町へと繰り出した。

ついでに切れた食材調達まで頼まれてしまった。


「一人で買い出しって退屈だなぁ」

と、ボヤきながら歩いていると、突然肩を叩かれ振り返る。

最近では町人の中でも、矢央に優しく接してくれる者もいて、その内の誰かだろうと思っていたが、予想は外れた。



「矢央。 元気にしちょったがか!?」

「…坂本さん!?」


矢央に声をかけたのは、今や京にいること事態危ない坂本龍馬であり、彼と会うのは一年以上ぶりであった。

変装することもなく、追われる立場にある者とは思えない程堂々としている坂本。


「久しぶりぜよ。 おまんを見かけた時、あまりに変わっちょるもんで気付くのが遅れた」


場所を移した矢央達は、人気のない神社の奥で腰を下ろした。

「変わって…ますか?」

「変わったのぉ。 もうすっかり、新撰組に染まっちゅうが」


低く発せられた声に、矢央は顔を俯かせる。

己の運命に翻弄されていた矢央を優しく包んで、居場所がないならば己の元へ来いと手を差し伸べてくれた坂本に会わせる顔がないと、今更ながらに思う。

会うべきではなかった。

そう思う矢央だったが、坂本はポンッと矢央の肩を叩く。


「会いたかったぜよ。 どんな形であろうが、おまんに知らせたいことがたっくさんあるぜよ」

「坂本さん…。 でも私は…」


――あなた達を裏切った。


世話になったのに、恩すら返せていない。


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