駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
「おまんは、間違った事をしたと思うちょるがか?」
坂本に対し申し訳ないとは思う矢央だったが、その問いかけには直ぐに首を振った。
間違っているのかも、正しいのかも正直に言えば分からない。
「ならええぜよ! おまんが選んだ事を後悔しちょるなら、説教の一つや二つはしてやるつもりじゃったが、その必要はないきに」
生温い風が、二人の髪を靡かせた。
もうすぐ鬱陶しい梅雨がやって来るのか、と坂本が目を細める。
「人それぞれ目指すものは違うもんぜよ。 それをとやかく言うのは、わしの性に合わんき」
「怒らないんですか?」
「何故じゃ? 怒ってほしいがか?」
すがるような眼差しを向けられた坂本は、ニカッと笑っている。
この男に、怒という感情はないのだろうか。
「…以蔵さんには、嫌われちゃったから」
一年も前の出来事だったが、つい昨日のように思い出す。
人斬り以蔵と恐れられた 岡田以蔵という青年のこと。
恐れられているというが、矢央は彼を恐れるというのが何故か分からないままだ。
態度は冷たいが、少し臆病で優しい青年だった。
ぶっきらぼうで照れ屋な以蔵は、坂本とは正反対。
そんな岡田以蔵との短い間の思い出の最後が、喧嘩別れだと言うことが切なく胸を抉る。
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