駆け抜けた少女ー二幕ー【完】

冷や汗が背中を伝った。

誰が亡くなったと言った?

矢央は瞬きを忘れ、食い入るように坂本を見つめた。


「わしがその知らせを聞いたのは、つい一昨日のことぜよ」


岡田以蔵は、五月十一日に打ち首となり死亡したという知らせは、坂本さえも悲しみのどん底へと押しやった。


友を救えなかった悲しみは、坂本をより新しき国造りに決意を持たせる。



「嘘だ…。 以蔵さん…は、今も京のどこ…かでっ」


堪えきれない涙が溢れ出す。

グッと、拳を握った甲に坂本はソッと手を乗せた。


「本当のことぜよ」


信じられない、と力なく首を振っていたが、坂本の眼を見ているうちに落ち着きを取り戻した矢央に、坂本は驚いた。


一年の間に、矢央は大きく成長したらしい。

泣きわめくことなく、以蔵の死を受け入れた少女の頭を撫でてやる。



「最後まで救ってやることができんかった。 だからこそ、仲間の友の無念をわしは無駄にはできんぜよ」

「私には…何ができるかな? 以蔵さんに、何を…してあげられるかな?」

「いつかおまんが落ち着いた時、手土産でも持って訪ねてやってほしいぜよ。 きっと、以蔵は何よりもおまんが来てくれることを望むはずじゃき」


そうだろうか。

坂本の言うことが、以蔵が望むことなのかは死んでしまった今では知るすべすらない。


「…そうですね。 うん、そうします」


しかし、それが約束を果たせる唯一の方法だろう。


いつか故郷へ連れて行ってくれると約束してくれた彼との、果たされなかった約束。

共に行くことは出来なくなったが、会いに行こうと新たな誓いをたてた。


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