駆け抜けた少女ー二幕ー【完】

その後、坂本は 「何れまた会う日が来る」 と言って去って行った。

同じ場所に長居が出来ぬことと、矢央を長い間拘束していれば心配した新撰組が捜しに来る危険があったから。


出来るなら、もっと語りたいことがある。

坂本にはお礼だってしたいが、所詮二人は相容れない仲なのだから、引き留めては坂本に迷惑がかかる。


それは避けたいことだったし、坂本なら本当にまた再会するだろうと確信があった。



坂本と別れた後、買い出しを済まし屯所へと帰る。

荷物を女中に渡した矢央は、部屋に戻る前に稽古場に向かった。


壁に掛けてある木刀を握り、暫く感情に浸る。

剣道の経験はないが、一振り木刀を振り下ろした。


――ブンッ! ブンッ!


こうやって若い以蔵も鍛練を積んだのだろうか。

彼は武士になろうとしたのだろうか。

否、多分だが違うような気がする。

彼が刀に託したものは、近藤のような武士への憧れでも、坂本のように未来への希望でもなく、

ただ友と共に歩む、穏やか日常だったのではないか。

置いて行かれぬように、必死になって腕を磨き仲間に認められたかっただけではないか。


もしそうだとしたら、やはり己達はどことなく似ている。


一人になるのが怖くて、置いて行かれるのではないか不安で、必死になって足掻いた。

そして矢央は見つけることが出来たのが、新撰組という居場所であるが、以蔵は見つけることが出来たのだろうか。


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