駆け抜けた少女ー二幕ー【完】

どんなに聞いてみたくとも、もう彼にこの声が届くことはない。

せめてもと願うのは、次の世では幸せになってほしいということだ。

刀、身分、血争いなどのない、彼の不器用な笑みが毎日見られるような、平和な世に――――。



「っっ――――……」


静かに涙を流した。

木刀を振るいながら、唇を噛みしめ、涙が止まるその時まで矢央は無我夢中になって身体を動かしていた。







屯所に帰って来たのは昼過ぎ、もう夕陽が沈み掛けている。

長い時間稽古場にいたらしい。

落ち着きを取り戻した矢央は、汗を拭いながら木刀を元の位置に返す。



「稽古をするならば、私に声をかけてくれれば良いのに」

「沖田さん!?」


肩に羽織を被せた沖田が、道場の板場を踏み鳴らす。

傍にやって来た彼の頬が少し赤くて、微熱があるようだった。


「駄目ですよ。 寝てないと」

「寝すぎて逆にしんどくて。 それより、矢央さん如何です? 剣術を習ってみませんか」


苦笑いしながら、先程しまったばかりの木刀を手に取った。

剣術か、と少し考えてみる。


「やはり武術の経験があるだけあり、筋も良いですからね」

「…習えば、沖田さんのように強くなれますか?」

「それは、真剣を握れるかと言うことでしょうか?」


質問を質問で返されたが、直ぐにコクンと頷く。

沖田の返答は、矢央の想像通りだった。


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