駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
二人して間の抜けた声を発し、目の前の原田を睨む。
睨まれた本人は悪びれた様子もなく、夫婦について語り始めた。
「いや〜良いものだぜ! 家に帰れば嫁が飯作って待っててくれてよぉ。 血生臭い日常を忘れさせてくれてさ」
「ああ、始まった。 左之ののろけ話」
おまさと籍を入れてからというもの原田は、結婚は良いと嫁は良いといつも話す。
慣れはしたが、最近ちょっと鬱陶しいぞと永倉は顔を伏せる。
「でもよ、新八も矢央も結婚しても良い齢だろ。 してぇ相手の一人や二人くらいいねぇのか?」
「二人いちゃいけないでしょ」
力説するわりには、結構適当である。
「ンで、いねぇのかよ新八」
「……いねぇな。 俺は、剣があればいい」
あっさり言って退ける永倉に、面白みが半減する。
「永倉さんには、島原にいっぱい女の人がいるんですよね?」
「……おい、それ誰が言った」
腰の筋肉に力が入る。
しまったと口許を押さえた時には、矢央を乗っけたまま身体を起こした永倉が、痛む腰の存在を忘れてガシッと矢央を捕まえていた。
「こら、吐け」
永倉の足に身体を乗せる状態の矢央との距離は、僅かに五センチ程。
向き合った状態の体制が、寝転がって様子を伺う原田には卑猥なものを想像させる。
「……沖田さん、です」
「総司め、いらんことを教えやがって」
「ま、事実だろ」
「うっせぇぞ、左之っ」
笑い声に頭が痛い。 痛いで思い出しのが、腰の痛みだ。
急に痛みだし苦痛に歪む顔が、矢央の肩に埋まった。
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