駆け抜けた少女ー二幕ー【完】

***


「間島さん、今お時間は頂けるかな?」


永倉や原田と別れた後、風呂を沸かす支度をしていた矢央に声をかけたのは伊東甲子太郎である。


一瞬どうしようかと考えてしまった。

何故なら、矢央は伊東のことがよく分からない人物だと思っていたからだ。


伊東が新撰組に入隊して暫く経ったが、あまり深く関わりをもったことがないし、土方にも関わるなと言い付けられていた。

しかし暫く考えた結果、特に理由もないのに避けては失礼だと判断した。



「お風呂の支度は、いつも君がしていたのかな?」


物腰が柔らかい伊東に、裏庭へと移動して来た矢央の肩から多少力が抜ける。


「いつもってわけではないですよ。 仕事がない時は、雑用をするようにって土方さんに言われているので」

「土方さんにね。 君…間島さんは、彼等と仲が良さそうだけれど、ちょっと…なんて言うか彼等とは纏う雰囲気が違う」


伊東は、矢央を見下げるとにこりと笑みを深くした。

何かを探るような視線を感じ取った矢央も、伊東から真っ直ぐ見つめる視線を反らすことはない。




「間島矢央さん。君は、とても大事な"何か"を隠しているのではないのかな」



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