駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
白い顔が笑みを浮かべ、背筋がゾッとする。
――何かを知っている?
矢央が未来から来た事は一部の者しか知らないし、教えてはならないと言われていた。
伊東は、土方が危険視する一人なので知られてはいけない人物なのだろうが……。
「なんのことですか?」
「おや、知らばくれますか?」
怪しまれないように笑顔で応えれば、逆に怪しまれてしまう。
根っから嘘がつけない人間は損をする…らしい、と内心溜め息を吐いた。
高く結われた黒髪を長い指でくるくる回しながら、伊東は何やら策を練っている。
次はどこから攻めてくるのだ、と生唾を飲み込んだ。
「伊東さん、こんなところにいたんですか。 近藤さんが、貴方を捜しておりますよ」
そこへ威圧感たっぷりの低い声を響かせ現れたのは、土方歳三だ。
全身黒の着流し姿の土方は矢央の隣に並ぶと、無表情で伊東を見つめる。
矢央はホッとしたが、伊東はせっかくのチャンスを奪われたからか苦笑いだ。
「近藤さんがお呼びとあらば、行かないわけにはいきませんね。土方さん、そんな恐ろしい顔をなさらなくても取って食いはしませんよ」
「………」
眉間の皺が、また増えた。
伊東はクスクスと笑いながら、軽く頭を下げて去って行く。
残った矢央は、黙ったままの土方に不安になり隣から見上げると、
「チッ! 伊東の野郎、この顔は元からだっつぅの…」
「気にしてたんだっ!?」
「ああっ?」
「いいえ、なんでも〜…」
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