駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
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季節はもうすっかり夏になった頃、与えられた部屋で暑さにまいってしまっていた矢央。
開けっぱなしにされた戸から、たまたま通りかかった藤堂が苦笑いして、そんな矢央を見下ろした。
「ほんと暑さには弱いよねぇ」
「…だって、京の暑さは半端ないんだもん。 あ〜、クーラーが恋しいぃ」
少し焼けた手をピクピクと天井に伸ばしていると、戸に持たれたままの藤堂が首を傾げて 「それなに?」 と、質問する。
未来から来た矢央は、出来る限り幕末で通じない言葉は発しないようにしているが、気を抜くとついやってしまう。
説明が面倒くさい。 暑さにまいっているので、至極面倒である。
「…あれですよ、未来のことは知ってはいけないのですよ」
面倒くさいので、説明するのを避けた。
最もな事を言っているようで、その口調はだらけている。
「面倒くさいだけだったりして?」
「うっ!」
「クックッ。 ほんと分かりやすいなぁ。 ところで、暑いからってだらけてるより、身体を動かしてみない?」
付き合いが長くなると、藤堂も矢央の性格が分かってしまい、面倒くさがっていることをバレてしまう。
胸の前で組んだ腕が、呼吸に合わせて僅かに揺れた。
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