駆け抜けた少女ー二幕ー【完】

藤堂に誘われやって来た道場は、暇をもて余す隊士達で溢れ熱気が充満していた。

汗の匂いに眉を寄せた矢央の前に、稽古をつけていた原田がドカドカと歩み寄って来る。


「おう! 平助に矢央じゃねぇか。 二人揃ってどうしたんだ?」

「矢央ちゃんが暑さにだらけてたもんだからさ、暑い時こそ身体を動かすべきかなって」

「なにぃ? おい、お前いったい幾つだよ」


原田は、方眉を上げ問う。


そこで改めて年齢について考えた。


「そういえば、この時代って誕生日を祝ったりしないよね」


素朴な疑問だったが、長年暮らしている間に違和感はなくなっていった。


「しかも斎藤さんに聞いたら、この時代の人は皆一斉に一月一日に年をとるって聞いたし。 てことは、私はもう十八歳ってことかぁ」

「十八か、あれだな…」

「なんですか?」

「普通に結婚してて良いよな。 つぅか、遅いくらいだぜ」

「…またその話しですか。 私の時代では早いって言われますけど」


年齢の話題になると、たいがい原田の結婚についての長い語らいが始まる。

藤堂は多少、というか大いに興味があるようで隣で苦笑いする矢央をチラッと見ながら、何度も相槌を打っていた。


そんな二人の会話を適当に聞き流しながら、いつの間にか年を重ね幕末という時代に馴染みつつある己が不思議でいて嬉しくも感じる矢央であった。


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