駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
パタパタと軽快な足音が聞こえた山南は筆を置き、もうすぐ開くであろう自室の戸へと体を向けた。
その数秒後、スパーンッ!と勢いよく開いた戸の向こうに見えた笑顔に 「やあ、こんにちは」 と笑顔で応えてやる。
「山南さんは、どう思います?」
「…どう、とは?」
話をする前に茶を入れてきた山南は、ダラリとだらける矢央に茶菓子も差し出す。
用意がいいのは、ここのところ遊び相手が減ったために矢央が山南を訪ねる頻度が増えたため。
「んと、沖田さんはいつになったら療養期間解かれるとか、永倉さんの謹慎期間はとか…」
せっかく同じ屯所にいるというのに、二人は別の部屋に籠りっぱなしで面白くない。
永倉は健康なので、食事を運ぶ時に会話を交わせるが、沖田にいたっては床に伏せているのでそうもいかず。
「どうでしょうね。 沖田君はとにかく、永倉君はもうそろそろじゃないですか。 ほら、永倉君がいないと二番隊が成り立ちませんからね」
そうなのだ、今、沖田率いる一番隊と永倉率いる二番隊は三番隊隊長である斎藤が面倒みている。
したがって、斎藤もまた忙しくここのところ余り顔を見ていない。
「みんな大変ですねぇ…」
「池田屋以来、新撰組の仕事は増えましたからね。 おかげで私も忙しいんですよ?」
会計の全面を指示する山南も、新撰組が忙しくなれば忙しくなる。
だが巡察に出る回数は、ここ最近めっきり減った。
だからこうして、矢央の餌食になっているのだが。
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