駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
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「矢央さん、大丈夫ですか?」
「……うん。 大丈夫なんですけど」
部屋の前で止まり、曖昧に返事する矢央を見て沖田は 「少しお話しましょうか」 と、矢央と二人縁側に腰掛けた。
身体は痛む。 それでも我慢出来ないほどではないのに、急に気分が悪くなった。
――――何故?
「ねぇ矢央さん、あなたが此方に来てから随分と時が経ち、環境も変わりました。 そして変わって行くのは、環境だけではなく私達もではないでしょうか」
夏の夜空に己を主張するように真ん丸な満月が浮かび、沖田の少し切なげな顔を白く照らす。
そんな沖田の言いたいことが分からず矢央は小首を傾げる。
「矢央さんは、もうすっかり大人の女性になられたと言うことです」
「大人?」
「先程気分が優れなかったのは、身体の不調ではなく心の戸惑いではないですか」
「え?」
何故かドキッと胸が騒いだ。
矢央の瞳が左右に揺れるのを、沖田は真っ直ぐ見つめ小さく笑みを浮かべる。
――やはりそうか。 と、己の考えが当たっていたことを知り、沖田は更に続ける。
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