駆け抜けた少女ー二幕ー【完】

「今まで誰かを男として意識したことがないでしょう?」

「え? いやいや、皆さん男じゃないですか」


何を訳の分からないことを言うんだ、とバシバシと沖田の肩を叩く。

その矢央の手をギュッと握った沖田は、驚く矢央の瞳を覗き込んだ。


「そう言う意味ではなく、恋愛の意味です」

「………」

「恋い焦がれる相手と共にいると、ちょっとしたことが喜びになり悲しみにもなる。 なんとも厄介なものですが、これは病ではないので治療方もないときた」

「えっと…沖田さんは、そんな相手いるんですか?」

「いますよ」


顔を見合せ、ピタリと額をくっつけた沖田はふわりと微笑む。
近すぎる距離に、沖田の視線から目を反らすことも出来なかった。



「私は、あなたが好きだ」

「ええっ!?」


色気のない声に、クスッと笑みがこぼれる。

沖田の思いもしなかった突然の告白は、矢央には意外でしかない。

何故なら、沖田が想う人はただ一人"お華"だと思っていたからだ。


「最初はね、お華に似たあなたに憎い感情さえ抱いた。 けれどひた向きに精一杯己を突き通すあなたを見ていると、いつからか目が離せなくなった」

「で、でもでも沖田さんには、お華さんが」

「ええ、お華のことは愛してましたよ。 否、今でも愛してますが、同じくらい矢央さんを愛してしまった私がいて……ふふ、酷い男ですよねぇ」


二人の女を好きになってしまった沖田だったが、それは仕方ないことだ。

矢央はお華の生まれ変わりなので、見た目も声も身体に流れる血液までも同じなのだから。

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