駆け抜けた少女ー二幕ー【完】

また土方が助けてくれたのかと思った。

ピンチの矢央の腕をいきなり掴み 「こんなところにいたのか」 と、少し怒を含んだ声がした時は。

しかし期待した土方ではなく、矢央にすれば意外過ぎる相手である。


「間島君、君が軍事について教えてほしいと言うから待っていたのに待っても来ぬから捜したではないか」

「え? た、武田…さん」


武田勘柳斉、五番隊の隊長あり、背が低く貧相な身体に額が広いのが特徴的だ。


武田は矢央の細腕を強引に引き寄せると、伊東を見上げて愛想よく笑った。


「伊東殿、この者が何かご無礼でも致したならば私が代わりに謝罪しよう。 この通りだ」

「いえいえ、少しお話をしていただけだからね。 武田さんを待たせてしまったならば、引き止めた私が悪い」

「………」


一体なんだ、この有り得ない光景は、と矢央の瞳は左右にキョロキョロ揺れ、心臓はバクバク煩い。

助けてほしいとは願った。 確かに願ったが、相手が違う。


伊東は何とか去ってくれたが、矢央にしてみれば武田も危険な人物の一人となっている。


「武田さん? あのぉ……」


とは言っても、これまでに武田と直接関わったことはないことが、矢央の危機感を鈍らせていた。


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