駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
気付けば場所が屯所の奥、あまり人が寄り付かない場所に来ていた。
「どうだろう、間島君。 近藤局長も君の身を案じておられることだ、剣が握れぬならばこの私が直々に軍事について教えようではないか」
それを聞いてどうなるのだろうか。
戦には役立つかもしれないが、戦に関わることを避けさせているのに何故?
ようやく立ち止まった武田は、矢央の腕を掴んだまま振り返った。
「そして、私の弟子となり常に共にいれば危険から守ってあげよう」
「はい? あの、武田さん…」
ニヤリと厭らしい笑みを浮かべた武田に、ようやく警笛が脳裏に鳴り響き、手を振り払おうと動かしてみたが、
「怖がる必要はないぞ」
武田は、細腕を逃がしはしないと強く握り締める。
身体に痛みが走った。
熊木との試合傷が癒えていないのを武田は知っている。
「武田さん、私は救護隊としてそれなりに身の置き方を考えてます! だから、わざわざ武田さんの手を煩わせることなんてっ…いたっ!」
「いやいや、これは私の好意だ。君は素直に受け入れれば良いから」
「いっ、放して下さいっ」
掴まれていた場所が、手首から腕へと上がり、武田の顔が首筋に寄ってくる。
荒い鼻息が首筋に当たり、全身に鳥肌が立った。
一体なにをする気だ、と、矢央の大きな瞳に不安の色が広がると、急に背後から別の手が伸びてきた。
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