駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
「藤堂君がいれば、喜んで矢央君の面倒を見るんでしょうがね」
「へ? なんで平助さんはなの?」
そりゃあ確かに、藤堂は一番矢央を構ってくれるだろうが、何故話題に出なかった藤堂なのかと首を傾げる。
きょとる矢央を数回瞬きして見つめる山南は 「おやおや」 と、苦笑い。
「藤堂君が、何故江戸行きを渋っていたか分かりませんか?」
聞いていながら、山南はわかっていた。
だが忙しいのに、一番暇そうだと判断された腹いせにちょっと意地悪な質問をしてみたくなった。
矢央は煎餅をバリンと割って食べながら、うーんと唸り声を上げる。
「そういえば、平助さん最後まで嫌だって言ってましたね? 最終的には柱に掴まっていた平助さんを、土方さんが無理矢理捕まえて引っ張って行ったけど」
夕餉中に江戸行を命じられた藤堂は、瞬時に顔を歪ませ、身近にあった柱にしがみつくという子供のような行動をとった。
が、土方に通用するわけもなく、江戸行きは決まり、一週間程前に屯所を発ったわけだ。
「ただ面倒だからじゃないんですか? あーでも、行けるなら私も行ってみたいなぁ、江戸」
「いくら面倒くさがりな藤堂君でも仕事となればちゃんとしますよ。 他に理由があるから、今回は渋っていたんですが…やれやれ、彼も大変だ」
「ん?」
「ところで、矢央君の出身は何処になるのですか?」
藤堂に同情している山南を見ても、鈍感娘はやはり気付かず、変わった話題に意識を向けた。
ここで私が手を貸しても、なんの意味もありませんからね。
藤堂君には、頑張ってもらうしかない。
「私は、今で言う江戸になりますね」
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